いつやる気になるの?





教えるためには、動機の高まった時を選ぶ



 言語や勉強のスキルを教える際、いつ教育するのが良いと思いますか?単純に言えば、子どもが学びたい時です。特に机に座って「勉強したい」と言ってくる子どもは稀でしょう。勉強自体がそれほど面白くない以上、言語の練習をゲームに散りばめて楽しくしたり、面白い話を勉強に絡めたり、お菓子、オモチャ、テレビを見る時間等のご褒美を使ってモチベーションを上げるしかありません。一般にABAを使って教える際、机上での課題の際は特に、課題の後に何が欲しいのか、子どもに好きなご褒美を選ばせることから始めます。

 しかし勉強は机でするばかりではありません。生活に必要な活動を通して色々なスキルを教える事ができます。例えば子どもが外に出かけたい時に、ジャンパーのチャックを上げることを教えたり、靴を持ってくる事を教えたり、「開けて」と言わせたり、色々な事を教えられます。子どもがお菓子の棚を勝手に開けてしまう時(お腹が減った時)、お菓子をご褒美として食べる前に手を洗うことを教えたり、お菓子の数を数えさせたり、色々教えられます。こういった自然の流れの中のレッスンの方が、机でするレッスンよりも効果的であることも多くありますが、残念ながら教える機会を逃してしまっている家庭が多いのです。

 私が親教育の際にお母さん(お父さん)に言うのは、「子どもからアプローチさせる」ことです。特に障がいのある子どもや言語が遅れている子どもは、何か欲しい時にそれを伝えられなくて泣く事が多いのです。泣いたらどうしますか?あやしますか?欲しいものをあげますか?子どもが泣かなくても良いように物を与えてしまう親が多いのです。しかし、これでは教育の機会を逃してしまっているのです。ABAの観点からすると、子どもが何か欲しい時、それが何かを教えるチャンスなのです。何か欲しい時こそ、モチベーションが上がっている場面なのですから、子ども自身からアプローチして何とか問題を解決しようと挑戦したり、何かをそこから学んだりできる大切な機会なのです。最初はちょっとぐらい泣いてしまっても大丈夫です。泣かなくてもちゃんと工夫すれば欲しい物が手に入ると学べば、泣く必要はなくなるのです。それが本当の意味での学習なのです。






 自然の生活の流れの中で色々教えると言っても、日々の生活は忙しいですよね。以下のようなステップを取ると、効率的に必要な場面でスキルを教えて行くことができるでしょう。

  1.  まず第一に、「ターゲット」を決めます。「ターゲット」とは、子どもにして欲しい(教える)行動のことです。例えば、欲しい時に泣くのではなく、「欲しい」と言ったり、「お母さん」と呼んだり、視線を合わせたて指差ししたり、色々なことが教えられます。まずは何を教えたいのか明確にすることから始めるのです。当たり前かもしれませんが、教えたい側が何を教えたいのか明確にしなければ、子どもには学んでもらえません。
  2.  第二に、子どもの動機を確認します。子どもが「欲しい」という意思を明確に示すまで、待つことです。どういうことかと言うと、教えるタイミングは「子どもの動機が高まった時」です。「この子はこのお菓子が好きだから」などの親目線の推測すると、子どもの動機が本当に高まる前に教え始めてしまい、良いタイミングを逃してしまうのです。ですから、子どもの「欲しい」と言う意思を観察して確認する必要があるのです。人の動機は時によって変わるのです。しっかり子どもの動きを観察して、その時本当にそれが欲しいと言う動機がピークに達した時、子どもが手を伸ばしたり、それを掴もうとしたり、何かしらの行動を出す時まで我慢して待つ必要があるのです。
  3.  第三に、「プロンプト」をします。「プロンプト」とは、適切な行動(ターゲットとしている行動)が出るように、手助けすることです。子どもの動機が確認できたら(例:子どもが手を伸ばした時に)、どうしたらよいのか見本を見せます(例:「取って」と言う)。この際、子どもの動機を失わないように、素早く行動を促すことが大切です。

 しっかりと子どもの行動を観察していれば、子どもの欲しい物を追って行くだけでも一日に何百回も教える機会はあるものです。また、教える内容もどんどん難しくすることができます。例えば要求を教えているなら、「赤いアンパンマンのおもちゃ取って」「どうやってやるの?」「そっちじゃなくて、ここに置いてよ」などと、言葉の難しさのレベルを徐々にあげて行くこともできますし、「欲しい?じゃあ、そっちのオモチャを片付けたらね」と関係のない課題を与えることもできます。教える機会だけでなく教える内容も無限に考えることができるのです。