子どもができる事まで手伝って(代わりにやって)しまい、子どもが親に頼りきりになてしまっているということがよく見られます。もちろん何もしなくても色々学んでくれる子どもも多くいるのですが、そうでない子どももたくさんいます。日々の生活習慣は、子どもに勝手に学ばせるのではなく、親が一つ一つ教えることが大切なのです。
私が過去に受け持ったケースでは、こういった例があります。もうすぐ3歳になる自閉症児。お母さんの話を聞くと、偏食がちでご飯も食べられないことが多く、ミルク(牛乳)で一日の栄養を補っているとのこと。子どもを見ると、言葉も話せず、お母さんの足にまとわりついて、泣いてしまっています。「きっとお腹が減っているのよ。」と、お母さん。お母さんが子どもをソファーに寝かせ、ミルクを哺乳瓶から赤ちゃんのように寝転んだ状態で飲ませていました。お母さんがさらにヨーグルトの容器を目の前に持ってきても、ヨーグルトには見向きもしません。「ヨーグルトは好きなのよ。」と、お母さんがヨーグルトをスプーンで口まで持って行って初めて、ヨーグルトを食べ始めるといった状態でした。
私の当時監督していた、カリフォルニアの教室で集中的な教育(週に25時間)を始め、1、2週間後にはお菓子ならテーブルに座って他の子どもと一緒に食べることができるようになりました。テーブルに座って、レッスンを受ける事も教えました。テーブルのレッスンを始めて、1−2ヶ月くらいした頃だったでしょうか、鶏の絵カードをみせると、「Rooster(雄鶏)」などと自分で言い始め、実は少しの言葉も知っていた事がわかりました。お母さんは、「ええ?一度も言葉を話すのを聞いた事がない。」と驚いていました。その後3歳でセンターを卒業し、1−2年で言葉も話せるようになり、幼稚園での昼食もサンドイッチなど好きな物なら自分で食べられるようになりました。(著者のサービスを受けたからと言って必ずこのような劇的な効果があるというわけではありません。)しかし、もし教育を始めていなければ、今でも何も話せないまま、ソファーに寝転んで、ミルクを飲んでいたかもしれません。ここで大切なのは、「教える」ということの大切さ、それから、子供は(人間全般に当てはまるかもしれない)何もしなくて良いのなら(親が全部やってくれるのなら)、何も学ばなくなってしまう可能性もあるという事です。
3歳までには、ほとんどの子どもがオモチャの片付け(おもちゃ箱にいれるだけなどの簡単なことから)、ゴミ箱にゴミを入れる、外に出かける時は靴を持ってくるなどの基本的な生活習慣を自分で行うことを覚える事になります。現在の教室では、靴を履く・脱ぐ、オモチャを片付ける、手を洗う、カバンをしまう、食べるときは座るなどの生活習慣は必ず教えます。3歳未満の子どもでも、自分のお弁当を自分のロッカーにしまい、お弁当の後はゴミをゴミ箱に捨て弁当をしまい、オモチャは自分で片付け、大人と一緒に歩いて(だっこしなくても良い、走り出したりしない)移動するなど、部分的に手助けは必要だったとしても、全ての生徒が学べることです。ただし、自閉症といった重度の発達障がいを持つ子どもに生活習慣を教えるためには、何週間、何ヶ月といった時間がかかる事が多く、半年かけてやっと一番簡単なゴミが捨てができるようになったという場合もあります。
2−3歳児のいる家庭を見ると、教えるより親がやった方が早くすんでしまうために、その場その場の時間をかけたくないがために、親が代わりにやってしまうことが多く見られます。ただし、自分で出来るようになる教育をしていった家庭では、教えるその場では時間がかかるかもしれませんが、長期的に見ればそれだけ子どもが自分で色々な事が出来るようになり、親の時間の短縮にもつながります。その場の時間をおしんで親が代わりにやってしまうと、長期的に見て損をしてしまうことになります。特に発達の障がいがある子どもには、「できないだろう」と勝手に想定してしまう場合もあり、それでは子どもが自分で自分の事をできるようになる妨げになってしまうので、注意ください。初めて私の教室に来て、「そんなことやらせたことがなかった(例えば靴下を自分で履かせたことがなかった)」とおっしゃる家庭があまりに多いのです。