DTT:ディスクリート・トライアル・トレーニング





DTTとは何か?



 ディスクリート・トライアルと言う言葉は、ABAでは行動の原理として生まれた言葉で、学習の一単位を表す言葉です。1)行動を引き起こすきっかけがあり(弁別刺激と呼ばれます)、2)行動が起こり、そして3)その行動に続いて何か良い事が起こる(強化子または好子と呼ばれます)。行動を教える(増やす)際には、これを一区切り(1試行とか、1トライアル)として考えて、この試行を繰り返すことで効果的に行動を増やし、目標を達成します。

 ABAの療育をやっている人一般には、机に生徒を座らせて、1)「これして」などの指示を出し、2)子どもができたら、3)褒めてご褒美を与える、と言う教育の手法(テクニック)としての使われ方がされる様になりました。行動の原理から言えば、ディスクリート・トライアルと呼ばれるためには、机に生徒を座らせる必要はなく(場所はどこでも良い)、大人が褒める必要もない(何か良いことが起これば良い)のですが、ABAの教え方のテクニックの一種として、机上での勉強を表す言葉として使われる様にもなりました。療育業界一般としては、アメリカでも日本でもこのテクニックとしての意味合いで広く使われており、大人と子どもが1対1で、机に座らせてスモールステップで少しずつ教えて行く形式をディスクリートとかDTTとか呼ばれる様になりました。

 このテクニックもともとABAを一躍有名にした大きな論文を出されたUCLAの故ロバース博士の行われた早期集中療育から来ました。実際にはその療育も、机上で行う課題だけをやっているわけではないのですが、机上座らせる方法が印象的だったのでしょうね。代表されるイメージとして定着してしまいました。机上の課題が悪いわけではないのですが、「ABA=DTT」そして「DTT=机上のドリル」といった誤ったイメージを勘違いされて「机に座らせて勉強させて、ロボットみたいな子どもを育てるんでしょ?」的な否定的なイメージまで出来上がってしまい、困ることもあります。確かに、ロバース博士の行ったDTTの早期集中療育では、机で行う課題や大人主導の課題が主な療育内容でした。もちろんABAの本当の専門家が監督していれば、ロボットの様な生徒に育てることはまずありません。しかし、机上で行うことが多い点からも、本などで聞きかじっただけの方が間違ったやり方をすれば、ロボットの様な言われたことだけしかできない生徒が育つこともあるかもしれません。まあ間違った使い方をすれば、どのテクニックでも成功はできないのは、当たり前ですね。





 この机上で大人が課題を出す形、大人主導の教え方を批判して、ABAの中でもPRT(Pivotal Response Training)の様に、子どもの動機を大切にし、子どもから何かやり始めた時にそこに教育的な働きかけを付け加える教え方もあります。例えば1)遊んでいる時に積み木が足らなくて、その時に大人が「積み木って言ってごらん」と手助けし、2)子どもが「積み木」と言えると、3)大人が「積み木って言えたね。」と積み木を与えるといったやり方です。療育のテクニックとしては、子どもの興味を追わなければいけないので、DTTと大きく異なるやり方です。

 しかし実は、行動の原理という点では、1、2、3のステップからもわかる様に、1)行動のためのきっかけがあり、2)行動が起こり、3)その後続いてその人にとって良いことが起こるという点で、実はこれもDTTであると言う奇妙なことが起こります。ABAの専門家は、こういった専門用語としての行動の原理からの意味合いと、テクニックとしての意味合いの両方を理解した上で、生徒に対して一番適切な行動を増やすにはどうしたら良いのか?柔軟に考えられる人のことを言います。もちろんそれぞれ得意、不得意なテクニックはあるのですが、基本の行動の原理を忘れない「ブレない」専門家を選択する様にすると良いでしょう。